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MIDI規格とその問題点

規格の標準化

現在、広く使われているMIDI (Musical Instrument Digital Interface) は主としてデジタルのシンセサイザどうしを接続するために制定された信号の規格です。MIDI規格が広まる以前はControl VoltageとGateというものを使っていました。Control Voltageは音量やピッチを電圧で表したもので、変圧器やシンセサイザ自体の熱などによって変化しやすいものでした。そういったアナログ・シンセサイザが主流だった当時に、MIDI規格を作った人は非常に先見の明があったと思います。通信速度、チャンネル数、音色数、音量やピッチベンドの分解能など、欲を言えば色々と改善できる部分は出てくるのですが、今でも実用上は規格改正の必要がないほど完成されています。

標準MIDIファイルはMIDI信号をファイルに保存するだけの規格だといっても言い過ぎではないと思います。標準MIDIファイルには楽曲の演奏のしかたや使う楽器の種類、作曲者や題名などの情報を書き込むことができます。しかし、肝心なものが抜けています。それは楽器の音色です。

たとえば、家にあるシンセサイザ用に曲を作ったとします。作ったものを友達の家にある別の種類のシンセサイザで演奏させると、思った通りに演奏されませんでした。ピアノであったはずの音がトランペットにかわっていたり、ギターの音がオルガンになっていたりするのです。

これはシンセサイザによって音の並びかたが違うからです。標準MIDIファイルの中では、楽器の種類を番号で表しています。A社とB社のシンセサイザで音色の並びかたが以下の表のように違っていたとしましょう。

  A社 B社
1 ピアノ トランペット
2 オルガン ギター
3 ギター オルガン
4 トランペット ピアノ

標準MIDIファイルのなかでは楽器の種類を指定するのに番号を使っています。これでは、「1番の楽器を使う」という命令がファイルの中にあっても、使うシンセサイザの種類やメーカーによって出てくる楽器の音が変わってしまいます。A社のシンセサイザを使っている人がピアノの音色で曲を作っても、B社のシンセサイザを使っている人にはトランペットで演奏された曲に聞こえてしまうのです。

そこで、シンセサイザ・メーカーの集まりで、「同じ曲ならどのメーカーのシンセサイザを使っても、あるていど同じような音が鳴るようにしよう」という提案がなされ、GM (General MIDI) 規格というものが誕生しました。GM規格では175種類におよぶ楽器の並び順だけでなく、音量や残響音なども共通のものにするように決められています。これでGM規格にのっとったシンセサイザであれば、作曲者が意図したものとほとんど同じ曲を聴くことができるようになりました。

二つの問題

「作曲者が意図したものとほとんど同じ曲を〜」と書きましたが、「ほとんど」というのがくせものなのです。じつは完全に同じ曲が聞けるわけではく、場合によっては全く違った曲になってしまうこともありえるのです。

同じ音色名でもメーカーごとに少しずつ違った音色を採用しているので、違うメーカーのシンセサイザでは完全に同じ音がなることはありません。たとえ同じメーカーであっても、旧機種と新機種では音が違うことがよくあります。QuickTimeをインストールしている人は、標準MIDIファイルをQuickTime音色で聞いたことがあると思います。QuickTime音色はローランドより提供されたれっきとしたGM音源なのですが、ハードウェア音源と比べてしまうと音質が悪いのがはっきり分かります。ひとつひとつの音色のニュアンスがそれぞれ微妙に違うことで、曲全体がまったく変わってしまったように聞こえてしまいます。

もうひとつの問題点ですが、GM規格には175種類しか楽器がないのです。たとえば生ピアノであればGM規格では4種類 (Acoustic Grand Piano、Bright Acoustic Piano、Electric Acoustic Piano、Honkey-tonk Piano) からしか選べません。この他にもピアノのカテゴリに分類されているものにはElectric Piano 1、Electric Piano 2、Harpsichord、Claviがありますが、生ピアノとしては適当ではありません。また、合唱隊の声は「アー」「ウー (またはオー) 」しかありません。「エー」や「ラー」が欲しくても、GM規格を使っている限り無理なのです。

曲の中に街の雑踏の音や除夜の鐘の音をいれてみたり、楽器の音色にこだわったりする、音楽家にとっては必要不可欠な表現手段が、著しく制限されてしまいます。

最近になって拡張された標準MIDIファイルではDLS (DownLoadable Sample Standard) という規格によって、標準MIDIファイル内に音色データを含めることができるようになっています。しかしこれをサポートしているソフトはまだ見当たりません。もしあったとしてもMODトラッカーに比べたらはるかに高価なものになってしまうでしょうし、専用のハードウェア (サンプラーやサウンドカード) も必要になるかもしれません。

これらの問題点を解決しているのがMODです。


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(c) 1998 時間蠅
作成:1998.6.24〜1998.10.25