公平に行きましょう。前の項目ではMODのいい点ばかりを選んであげてきました。ここでは悪い点ばかりを挙げてあります。
適切なソフトウェアを使えば、ハードウェアの違いを補うことができます。たとえば、Microsoft Wordでは、Windowsで作った書類をMacOSでも開いて読むことができます。また、JPEGやGIFなどの画像ファイルもUnix、MacOS、Windowsなど、さまざまなプラットホームで同じ物を見ることができます。各オペレーティング・システムごとに操作のしかたがあれだけ違っていても、ディスプレイの大きさが違っていても、CPUの種類や性能がまるっきり違っていても、同じ物を見ることができるのです。それは、ソフトウェアが、機種に依存しない共通のデータを読み込み、各プラットホーム独自の方法で表示するようにしているからです。ハードウェアが違っていても、ソフトウェアがデータをうまく適応させているのです。
しかし、それは「適切なソフトウェアを使えば」という前提条件のもとでうまくいくことです。MODは「場当たり的に」拡張を繰り返した汚いフォーマットです。一番最初のMODソフトはAmiga上で作られ、4トラック、15サンプルしか扱えませんでした。それが31サンプルまで扱えるようになり、8トラックに拡張され、64サンプル32トラックになり、現在の最高は255×64サンプル、254トラックです。
また、フォーマットによっては、あるエフェクトが追加されていたり、数値の数えかたや効き具合が違っていたりします。すべてのフォーマットを再生したいソフトウェアは、それらすべてにこと細かく対応しなければいけません。数十種類に及ぶフォーマットを解析し、それぞれを正確に処理するのはほぼ無理でしょう。
もちろん、各フォーマットの仕様書は手に入ります。しかし、そのフォーマットをサポートしているソフトが、その仕様書どうりにフォーマットを扱っているかは分かりません。ソフトウェアにはバグがつきもので、そのバグがそのソフトウェアの個性になっている場合もありうるのです。仕様書に従ってソフトを作っても、同じ音がならない場合のほうが多いくらいです。
MODを使うと細かいところまでは編集できません。標準MIDIファイルでの時間の最少単位は四分音符を1/480に分けるものが一般的です。テンポが120だとすると、一秒は960に分割されます。一般的なMODでは、1パターン (64ビート) に4小節あります。1ビートが5ディヴィジョンになっています。1ディヴィジョンが最少単位ですので、こちらもテンポが120だとすると、一秒は160に分割されます。この差は歴然です。しかも、自分で直接コントロールできるのはディヴィジョンではなくビートの部分なので、実は一秒が32に分かれる、と考えたほうがいいかもしれません。つまりこの例だけから考えると、標準MIDIファイルを使ったほうが、30倍も細かく打ち込みができるということになります。
これで十分なのでしょうか? 標準MIDIファイルでサポートしている数が大きすぎるのでしょうか? では、一秒間が32に分かれる、ということをもうすこし考えてみましょう。一秒間に32回の音がならせるということは、高橋名人の二倍の連打速度ということですね。いや、冗談抜きで、これだったら普通の演奏をさせるのには十分だと思えてきませんか? これだけ速く指が動く人はそうそういないでしょう。
では、なぜ標準MIDIファイルはあんなに大きな数までサポートしているのでしょうか。・・・想像力を働かせていきましょう。あなたはアマチュア・バンドのメンバーだとします。今日は二週間ぶりに練習スタジオにきました。久しぶりにメンバーに会ったので、いろいろと近況報告をしてから、今日の一発目をジャーンとあわせて・・・ここで何が起こるでしょうか。そうですね、アマチュアですし二週間ぶりですし、一発目が「あわない」んです。たとえプロでも他のバンドメンバーと演奏がぴったりあうということは絶対ありません。必ずわずかにずれるのです。その「ずれ」が気持ちいいのです。すべてがぴったりあっていると、かえって「機械っぽい」曲になってしまい、面白みがなくなってしまうのです。
ピアノの鍵盤で和音をひいてもそうですし、ギターでコードをひくときは特にそうです。絶対に二つ以上の音が同時に鳴ることはありません。ずれがあります。大抵そのずれは1/32秒よりもはるかに小さいずれです。つまり、MODではわずかなずれが表現できないのです。
もちろん機械っぽさを強調したテクノのようなジャンルもありますので、曲によりけりです。MODでテクノやダンス系の音楽が中心に発展していった理由のひとつはこのことにあるのかもしれません。
音声サンプルをファイル内に含んでいるので当然なのですが、ファイルが500KB〜1MBと、けっこう大きいです。もちろん、WAVやAIFFといった、音声の生データに比べればかなりファイルサイズは小さくなりますし、通信速度の向上でダウンロード時間も短くなってきていますが、やっぱり大きいものは大きいです。
曲中で使用するサンプルの音質を気にしなければ、50KB以下の曲も作ることができます。しかし、CD音質のサンプルをふんだんに使ったため、ファイルが15MB以上になった、という話も聞きます。MODファイルより、MP3にしたほうが小さくなるという変な現象が起こります。
標準MIDIファイルを再生する際には、MIDI信号をコンピュータに接続したMIDIインターフェイスにタイミング良く送信するだけですみます。MODでは音声を合成しなければいけないので、たいていのソフトは速いCPUを要求します。また、速い音声合成をするためには、すべてのサンプルがメモリ上になければいけませんから、大容量のメモリも要求されます。
もちろん、極端な話ですが、i80386搭載に加え本体メモリが1MBのIBM互換機でMODを作っている人もいますので、ソフトの重さは作る曲の規模によります。
(c) 1999 時間蠅
作成:1999.1.15