このページではMODの将来を紹介するにあたり、Mac OS XでのMOD環境だけにとらわれず、Windows用のものやLinux用のソフトウェアも紹介しています。
MP3に代表される知覚的音声圧縮フォーマットの出現、そしてネットワーク環境のブロードバンド化により、これまでよりも料金を気にしないでネットワークを使える時代になってきました。この文を書いている段階では一曲5MB程度のファイルですら数秒でダウンロードが完了する状況になっています。そんな中では当然「ファイルサイズの小ささ」と「完全ではないが高い再現性」を利点としていたMODよりも、ファイルサイズが少々犠牲になるが再現性の高いMP3が選ばれるのは当然でしょう。
AcidやLiveなどのループ・シーケンサの登場もMODにとっては脅威となっているようです。安価で高品質なループ集がジャンル別に購入できるため、簡単に曲が作れてしまいます。また、共存できるような印象のあるReasonやStormといった統合型ソフトウェア・シンセサイザーの存在もMODを脅かす存在になっているようです。仮想アナログ・シンセサイザー、ループプレイヤー、ドラムマシン、各種エフェクタを持ち、内蔵のシーケンサを使って曲を完成させることができ、完成した曲をWAVやAIFFとして書き出しMP3に変換して公開すれば、完全にソフトウェアのみを使ってデジタル領域の外に出ることなく作曲から配布までを行うことができます。MODトラッカーでもループ・シーケンサーや統合型ソフトウェア・シンセサイザと似たことができますが、素材となるループを用意してトラッカーに取り込んでテンポを合わせて・・・と作業が多いのが弱点でしょう。
MODトラッカーは過去のものになりつつある、という印象が弱からずありますが、それに対抗するかのようにいくつか新世紀のトラッカーとでも呼べそうなものが出てきています。
1990年代のトラッカーであるFast TrackerやImpulse Trackerとは一線を画したトラッカーがいくつか登場しています。その中でも代表格はBuzzでしょう。シンセサイザ部分やエフェクト部分をパッチケーブルで接続しトラッカー画面で曲を入力するというもので、上記のReasonやStormに似た構造になっていますが、フリーウェアとして配布されているのが大きな特徴です。シンセサイザやエフェクトはプラグインとして追加できる仕組みになっているので、有志が新たなプラグインを開発・公開し、コミュニティを成しているのも特徴です。Buzzに似たものとしてはGNUライセンスのもとオープンソースで開発が続けられているOctalと、よりトラッカー・シーンに近い場所に位置しているPsycleがあります。Linux用にはBEAST/BSE Pattern Editorという同様の音楽制作環境が開発されています。
これらのソフトウェアに多大な影響を与えたソフトウェアはおそらくPrograph-CPXというソフトウェア開発環境や、MaxというMIDI用プログラミング環境でしょう。特にMaxはBuzzやOctalと同様に単機能のパーツをいくつか組み合わせていくという方式で、自由度の高さから多くの現代音楽の作曲家や演奏家に愛用されてきました。現在はMSPという追加プログラムを利用することにより、MIDIだけではなくオーディオや外部機器のコントロールもできるようなプログラミング環境に進化しています。またJava環境で動くMax互換のjMaxというソフトウェアも登場しています。
Buzzのようなパッチ型ソフトシンセと従来のトラッカーの間をねらったソフトウェアもあれば、Fast Trackerの操作性を踏襲した新世代トラッカーとして登場したSkale Trackerがあります。コンピュータの性能向上にあわせてトラッカーも様々な機能の追加や向上がはかられています。
また、Linuxでの利用を第一に考えられて開発されているのがSound Trackerです。こちらもFast Trackerの見た目や操作性と酷似したソフトウェアですが、Linuxで動くトラッカーとしては最も完成度の高いものでしょう。Linux用にはほかにもXsoundtrackやFunktrackerGOLDなどがありましたが、現在では両方とも開発が中断されてしまっています。毛色の違ったものにはShake Trackerなどもありますが、厳密にはMODトラッカーではありません。詳しくは開発元のページを参照してください。
これまでMODトラッカーやプレイヤーの開発者は機種依存やサウンドカード依存について頭を悩ませてきました。しかしJava Sound APIの登場もあり、機種依存のない音再生環境も充実してきました。これまで機種依存のないプログラミング環境としてのJavaをMODに利用しようという試みは多くありましたが、Java Sound以前はAMラジオ・クオリティ以下の音楽再生しかできず、またリアルタイム動作速度の遅さも問題になっていました。最近になってJava VMの速度向上やJava Soundの登場によって、OSやサウンドカードに依存しない音再生環境が得られるようになりました。Java 1.3以降に対応したMODプレイヤーの例としては、MicroModがあります。