1. 初心者
 助けて! どこから始めていいか分からない!
-----------------------------------------------------------------------------
 トラッキングにおいては、初心者のうちが一番大変かもしれません。また、多くの人
が諦めてしまうところでもあります。成功の鍵は忍耐と練習です。最初のうちは、いろ
いろと忠告してくれる人の意見に耳を傾けたほうがいいでしょう。どんな批評も前向き
に受け入れ、あなたの技術向上のために使いましょう。あとは練習を積めば完璧です。
モジュールを作れば作るほど、サンプルを録音すればするほど、どんどん上達していき
ます。単純なことなんです・・・。



   - えぇと、トラッカーってなんでしょう?
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 トラッカーとは、コンピュータと音声サンプルだけを使って音楽を作ることのできる
ソフトウェアのことです。サンプルは様々な音程に変換され、エフェクトをかけられて
、音楽となって演奏されます。楽曲データは以下の表のようになっていて、それぞれの
音をどのように演奏すればいいかが書いてあります。

    Note   Instrument   Volume   Effect command   Effect parameters
    C#5        1          40            1                01

        C#5 1 04 101    F-6 2 38 330    G-3 3 20 F05    ---   -- 000
        ---   -- 102    ---   -- 300    D-2 3 24 A0F    C-4 4 -- 472
        C#5 5 -- E93    ---   -- 300    --- 3 P0 A0F    ---   -- 400

このデータが画面をスクロールしていき、そのときカーソルに重なっている部分が処理
され、演奏されることになります。この例ではFastTracker2のものを使いましたが、す
べてのトラッカーが同じレイアウトを採用しているわけではありません。
 トラッカーは曲をモジュールと呼ばれるファイルに保存します。普通、モジュールは
短縮されてMODと呼ばれています。もともとMODというのはSoundTrackerのモジュールこ
とだったのですが、時がたつにつれて他の種類のモジュールも含めた一般的な単語にな
りました。MODはMIDIとサンプルのあいのこのようなもので、演奏の情報と演奏に使われ
る楽器(サンプル)の情報が含まれています。
 実際にはトラッカーとMODに、誰にでも分かるような「定義」を与えるのはかなり難し
いことなのです。あなたがインターネットで「MOD Trackers」を検索したら、相当な数
の定義がでてくると思いますよ。



   - トラッカーを選ぼう
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 一番初めにやることって、これなんじゃないかな・・・?

 自分の使っていくトラッカーを選ぶことは、たぶん一番重要なことでしょう。トラッ
カーによってはめちゃくちゃ難しいユーザー・インターフェイスが付いていたりします
。トラッカーを以前に使ったことがないのにそんなものを選んでしまったら、勉強しな
いといけないことが増えてしまうわけです。

 私が知っている限り、トラッカーが存在するシステムは6つあります。
   - Amiga
   - DOS
   - Windows 3.1/9x/NT
   - Mac 
   - Unix/Linux/Sun/NeXT
   - Atari

 もちろんあなたが使うシステムは自分が持っているシステムになりますね。しかし、A
miga、Atari、Macのトラッカーは、ハードウェア構成によっていくつかの種類に分かれ
るのです。
 どんなトラッカーを使うことに決めたにせよ、トラッキングを始める前にマニュアル
を読むことを忘れてはいけません。既存のモジュールをいくつか読み込んで、いろんな
機能で遊んでみて、どんなぐあいになっているのか知りましょう。一日かけて、トラッ
カーの全機能を探検してみましょう。
 どのトラッカーがあなたにとって一番いいのかを知る唯一の方法は、いくつかを試し
てから決めることです。私は、あなたの使っているハードウェアでの標準的なモジュー
ルを扱うトラッカーをお薦めします。例えば、Amigaを持っているのであればMODトラッ
カーが、PCであればITかXMのトラッカーがいいでしょう。
 誰それが使っているからとか、たくさんの機能があるから、という理由だけでトラッ
カーを選んではいけません。いくらパワーがあっても、それを使えないのでは意味がな
いので、できるだけ使い勝手のよさで判断するようにしましょう。



   ハードウェアを選ぶ
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 トラッキングをするのに必要な基本的ハードウェアは:

 コンピュータ: たぶんもうすでに持っているでしょう。持っていないのなら、これ
をどうやって読んでいるのやら! コンピュータにはなにかしらのデジタル・オーディ
オ装置が必要です。Amiga、Atari、Macのどれかを持っているのであれば、当面は大丈夫
。デジタル・サウンドカードのようなものの搭載されていないPC(ここではIBM互換機だ
けを意味しているわけではありません)であれば、もうトラッキングを始める前からつ
まづいています。今すぐサウンドカードを買ってきなさい!

 モニタ装置: 必要になるのはスピーカーかヘッドホンだけです。基本的なハードウ
ェア構成についてしか話していませんので、トラッキングを始めるためには、まぁどん
なものでもいいでしょう。



   さあ始めるぞ
  ~~~~~~~~~~~~~~
 ルック&フィールの気に入ったトラッカーを手に入れましたね。次にしなければいけ
ないことは音色サンプルとモジュールを手に入れることです。あなたの好きなジャンル
のもので、納得のいく質のものを探しましょう。インターネット・リソースのセクショ
ンにあるリストを見れば、どこに行けばいいか分かると思います。もしインターネット
の使えない環境にいるのであれば、シェアウェア・ライブラリーやBBSでも何とかなると
思います。モジュールをあさるよりもサンプルを手に入れるほうがいいと思いますが、
モジュールからサンプルを剥ぎ取るのも簡単です。
 また、自分で音を録音してサンプルを作ることもできます。しかし、一般的に何を使
うべきで、何が必要か、といったことを知らないと、これはかなり難しいでしょう。ま
だトラッキングのしかたもちゃんと分かっていないのであれば、トラッキングとサンプ
リングのどちらを先に学ぶかを選んだほうがいいと思います。これによって勉強が楽に
なります。もし先にサンプリングの仕方を学びたいのであれば、サンプリングのセクシ
ョンへ進んで、読み終わってからここに戻ってきてもいいでしょう。



   リソースを整理する
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 まずはじめに、音楽関係のものをしまっておくためのディレクトリをいくつか作らな
いといけません。たくさんの方法がありますが、参考までに私のやり方を紹介します。
もちろんこの方法に従わなくても構いません。どういう構造にするか、という提案をし
ているまでです。
 私は音楽関係のものには別々のパーティションかCD-ROMを使っています。これによっ
て簡単に整理ができ、他のパーティションやディスクが破壊されても、すべてのデータ
が壊れてしまう危険を防いでくれます。
 私の場合は以下のようになっています:

E:\FT2                                 - Fasttracker IIと関係するユーティリティ
  \HANDBOOK                            - トラッカーズ・ハンドブック
  \INSTR                               - インストゥルメント
  \IT                                  - Impulse Trackerと関係するユーティリテ
ィ
  \MODULES                             - ほかのトラッカーによるモジュール
  \MYMODS                              - 自分のモジュール
         \8-BIT                        - 自分のモジュールの8ビット・バージョン
  \PATTERNS                            - パターン・データ
  \RESOURCS                            - トラッキング関係の手引書など
  \SAMPLES                             - んんー、何でしょう・・・
         \309                          - Quasimidi Rave-O-Lution 309
         \BASS
         \BRASS                        - 金管楽器
         \BREAKBTS                     - ブレークビート
         \DRUMKIT
                 \BASSDRUM
                 \CLAP
                 \CLOSEHH
                 \CRASH
                 \MISC                 - シェイカー、タンバリン
                 \OPENHH
                 \RIMSHOT
                 \SNARE
                 \TOM
                 \TR-606               - Roland TR-606
                 \TR-808               - Roland TR-808
                 \TR-909               - Roland TR-909
         \DSS-1                        - Korg DSS-1
         \FX                           - サウンド・エフェクト
         \GUITAR
         \JP8000                       - Roland JP8000
         \JUNO60                       - Roland Juno 60
         \MC-202                       - Roland MC-202
         \PADS                         - シンセ・ループとストリングス
         \PIANO
         \SH-101                       - Roland SH-101
         \SYNTH                        - シンセ・スタブとヒット
         \VOCALS
         \WIND                         - 木管楽器
  \TRACKS                              - トラック・データ
  \UNFINISH                            - 未完成のモジュール

 これによって、自分の欲しいサンプルが素早く使えるわけです(ほとんどのサンプル
の名前と音色は覚えていられます。なんて記憶力だ!)。また定期的にサンプル・コレ
クションの掃除をして、質の悪い(レベルオーバー、ノイズが混ざっている、など)サ
ンプルは捨ててしまいます。ほとんど使わないものや、もう使ってしまって二度と使わ
ないだろうものも捨てています。
 すべてのディレクトリにDETAILS.TXTというファイルがあります。このファイルにはデ
ィレクトリの中にあるファイルの名前と、どこから手に入れたかが書いてあります。も
しあなたが何千ものサンプルを持っていて、サンプルの作者を参照したいのであれば、
これによって時間と労力がかなり軽減されます。
 なにかしらの構造を作ってしまってから作業を開始することをお薦めします。ハード
ディスクの中がごちゃごちゃになってしまうのを防いでくれ、より効率的に曲作りがで
きるようになります。フロッピーディスクで作業をしているのであれば、違う種類のサ
ンプルは違うディスクに入れましょう。また、こまめに最適化とエラーチェックをしま
しょう(これはハードディスクを使っている人たちにも言えることです)。



   さぁやるぞ
  ~~~~~~~~~~~~
 もうここまできたら、お気に入りのトラッカーと、サンプルやモジュールをいくつか
持っているはずです。
 これから簡単な曲の作り方を説明します。これからあなたが何をしていけばいいかの
助けになると思います。
 曲はステップタイムとリアルタイムの二通りの方法でできます。モジュールの大部分
はステップタイムで作られていて、だいたいのタイミングが知りたいところだけがリア
ルタイムで入力されていると思います。もしあなたのサウンドカードにMIDIキーボード
がつながっているのなら、それを使って音を入力できます。一般的には、トラッカーの
クオンタイズによって音のタイミングがかなり変わってしまうので、ステップタイムで
入力したほうがいいでしょう。

 最初に、ドラム、ベース、メロディ、コードの4チャンネル・モジュールから作ってみ
ることをお薦めします。4トラックであれば、スクリーン上で、どのチャンネルで何が起
こっているかが把握しやすいのです。もっとたくさんのチャンネルを最初から使いたい
というのであれば、もちろんどうぞ。しかし、現在活躍している偉大なトラッカー・ミ
ュージシャンのほとんどは4チャンネル・モジュールから始めていることを忘れずに・・
・。

 何かを学ぶ最高の方法は、他人がそれをやっているのを見ることです。これはトラッ
キングにも当てはまります。シーンに出ているすごいモジュールを聴くだけでもたくさ
んのことを学べます。もし曲のアイデアとどんな風にしたいという考えがあるのなら、
それに似た、熟練者の作った曲を探すのがいいと思います。また、それを何度も聴いて
みて、何がその曲をたくさんある他の曲より優れたものにしているかを探しましょう。
もしあなたがそのテクニックを自分なりのやり方に直して自分の曲で使えるのであれば
、やりましょう。
 自分で聴くのが好きな曲から書いていくことにしたほうがいいでしょう。オーケスト
ラ曲をふだん聴かないのであれば、自分でも書かないほうがいいです。そういうのは聞
けば分かっちゃいますから。

 曲を本物っぽくしたいのなら、それぞれの楽器がどのように演奏されるのかを想像し
てみましょう。自分が、今書いているパートを演奏するミュージシャンだと思ってみて
ください。また、もしピアノなどを曲中に使うのであれば、単音で鳴らすのではなく、
もっとコードなどを使ってみましょう。本物のピアノ演奏では一度にたくさんの音を鳴
らしていますよね。
 以前は、サンプルの容量を節約するために、ひとつのサンプルにコード全体を録音し
たりしていました。今は無数のチャンネルが扱える素晴らしいトラッカーがたくさんあ
ります。チャンネル数を気にせずに単音からコードを組み上げると、より良い、プロっ
ぽい響きができあがります。が、注意してください! 単音だけを使うのではなく、音
を組み上げて曲を作るのであれば、音楽的能力が必要になってきます。単純なメジャー
・コードは簡単ですが、単純さが重なると曲がつまらなくなります。でも、もしそうい
うことがちゃんとできるのであれば、プロフェッショナルで技術的な音ができるでしょ
う。しかし、なめらかに流れるようなものが作れるようになるまでは相当な時間がかか
ります。
 音の隙間をうまく埋めるために、低い周波数と高い周波数をバランス良く使ってみま
しょう。低音ばかりで高音が少ししかない曲は荒っぽく聞こえますし、高音が多くて低
音に欠けるものは中身の無いうすっぺらな音になります。



   エフェクト・コマンド
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ここまできたら、曲を面白く、またカッコ良くするために、エフェクトを実験したく
なっているでしょう。始める前にちょっとはっきりさせておきます。エフェクトはそれ
が必要なときだけに使うべきです。エフェクトが用意されているから使ってみる、とい
うのはあなたの曲の質を向上させてはくれません。
 このセクションでは、ProTrackerのMODで使っているエフェクトだけをカバーします。
現在あるほとんどのトラッカーはこれをサポートしています。しかし、多くのトラッカ
ーが同じエフェクトを表すのに別の文字・数字を使っていますので、試す前に確かめて
おいてください。もしここに書かれているエフェクトを使ってみて、まったく違う結果
になったのなら、トラッカーの説明書を読んで確認してください。
 すべてのトラッカーで、エフェクトはそれぞれのチャンネルの一番右側の列に置かれ
ています。エフェクトはエフェクト・コマンドと数値からなっています。異なるトラッ
カーでは同じエフェクト・コマンドに異なる文字と数値を割り当てていますが、数値は
たいてい16進数を使うようになっています。もし16進数と言うのが何かを知らないので
あれば、次の、Impulse Trackerから抜き出した説明がわかりやすいでしょう。

「コンピュータにとっては10を桁の基本にした10進数を使うよりも、16を基本にした16
進数を使うほうが自然です。16進数での最初の9つの数字は「1」〜「9」で表し、次の6
つは「A」〜「F」を使って表します。16進数で数を数えるとこうなります:(0)、1、2、
3、4、5、6、7、8、9、A、B、C、D、E、F、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、
1A、1B、1C、1D、1E、1F、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、2Aなどなど。
 16進数の数を10進数に直すためには「十の位」に16を掛け、二番目の桁の数を足しま
す。例えば16進数で32は3*16+2=50になります。2Aは2*15+10=42です(Aは10になります
)。2桁の16進数で表せる最大の数はFF、10進数で256です。」

 さあ、最も基本的なエフェクトである、Set Volumeコマンド(C)から始めましょう。
音を入力してからカーソルを動かしてエフェクト・コマンドの欄にあわせ、Cと打ち込み
ます。パターンを演奏しても、Cと入力した部分の音は聞こえないはずです。これはエフ
ェクトの引数が00だからです。二つならんだゼロを40(10進数では64)に変更しましょ
う。パターンを再生すると、その音が最大ボリュームで鳴るはずです。

 次にPosition Jumpコマンドです。これはBに続けて、飛びたいプレイリスト中の位置
を書くだけです。覚えておきたいのは、プレイリストの番号は1ではなく0から始まると
いうことです。このコマンドの引数は通常16進数で書きます。

 さてVolume Slide(A)です。これは第二テンポに影響されるので、少しややこしいで
す(最近のトラッカーを使っているのなら、もっとややこしいです。ここに書かれたも
のと同じ結果がほしいのなら、スライド設定をLinearではなくAmigaにしましょう)。い
まのところは(あとで変更できますから)第二テンポは06にあわせておきましょう。長
いサンプルかループしているサンプルを読み込み、ひとつかふたつ音を入力しましょう
。音を書いたところから何行かあけて、エフェクト・コマンドAを書きます。引数には0F
を使います。パターンを再生すると、エフェクトが起こった瞬間に気付くと思います。
音量がいきなり小さくなるのです。今度はエフェクトの引数をF0に直し、音のボリュー
ムも小さく変更しておきます。再生して、エフェクトがかかると、音量が非常に速く大
きくなります。
 これは、コマンドAの引数のそれぞれの部分は違うことをしているからです。はじめの
数字は音量を引き上げ、二番目の数字は音量を下げるのです。両方を同時に使うことは
推奨されていませんが、トラッカーは最初に出てきたゼロでない数字を使うようになっ
ています。8Fと指定したら、トラッカーはFを無視して8だけを見ますので、ボリューム
が上がることになります。ただ、ボリュームを上げるのと下げるのを同時に使うのは間
抜けに見えますので、やめておきましょう。

 Set Tempoコマンド(F)は理解しやすい命令です。ただ変更したいBPMを(16進数で)
指定するだけです。ただ、数値を20(16進数)以下にしたときは第一テンポではなく第
二テンポを指定する命令になることに注意してください。

 もうひとつの便利なコマンドはDのPattern Breakです。これは現在演奏中のパターン
を中止して、プレイリスト中の次のパターンに飛ぶものです。引数に00よりも大きな数
を指定することによって、どの行から演奏を続けるかということも指定できます。

 コマンド3はPortament to Noteです。これは現在演奏中の音程を他の音程に指定した
速度でスライドさせるものです。指定した音程に達したところで音程変化は止まります
。これを説明する最適の方法は例を使うことでしょう。

   C-2 1 000 - 音の演奏開始
   ---   000
   C-3   330 - 速度30でC-3までのスライドを開始
   ---   300 - スライド続行
   ---   300 - スライド続行

 このコマンドは前の値を覚えているということにお気付きでしょうか。一回引数をセ
ットしてしまえば、次からは引数を指定しないでコマンドを入力できます。つぎに引数
を指定するまでの間は同じエフェクトがかかるようになります。この記憶機能によって
他のコマンドも正常に動作させることができるようになります。たとえばPortament and
 Volume Slide(コマンド5)などです。一度コマンド3の引数が指定されれば、コマンド
5はその引数を受け継いでポルタメントを実行します。また、コマンド5に指定された引
数はVolume Slide(コマンドAと同じもの)に使われ、Portament to Noteと同時に実行
されます。
 この記憶機能はあらかじめ引数が指定されたチャンネルと同じチャンネルでしかはた
らきません。
 他にも二つの機能を同時に実行するコマンドはたくさんありますが、それらについて
は、そのコマンドが出てきたときに説明することにします。

 次に説明するのは、コマンド1とコマンド2、Portamento UpとPortamento Downです。
コマンド1は指定したスピードで音程を上げ、コマンド2は指定したスピードで音程を下
げます。このコマンドは第二テンポに影響を受けるという点でVolume Slideと似ていま
す。コマンド1も2もお互いに記憶機能がはたらきます。例えばコマンド1で速度を3に設
定して、引数なしでコマンド2を使用すると、コマンド1で指定した引数が使われます。
逆も同じです。

 コマンド4はVibratoです。Vibratoは簡単に言えば高速での音程の変化です。ちょっと
試してみれば、私の言う意味がわかると思います。引数はxyという形をしており、xが変
化の速さ、yが変化の大きさです。ビブラートを微妙で自然にしておくということを覚え
ておきましょう。だいたい変化の大きさは3以下で、変化は適度に速い8くらい、が良く
使われています。変化の大きさをあまりに上げすぎると音程が曲全体から外れてしまう
ことになります。

 コマンド4に続けてコマンド6です。これはVibrato and Volume Slideコマンドで、コ
マンド5と同じように記憶機能があります。もう使い方はわかっているでしょう?

 コマンド7はTremoloです。これはビブラートと似ていますが、音程を変化させる代わ
りに音量を変化させます。エフェクト引数はVibratoとまったく同じフォーマットになっ
ています。

 コマンド9はSample Offsetです。これはサンプルの途中から再生を開始する命令です
。エフェクト引数はサンプルのオフセットを指定しますが、とても粗くでしか指定でき
ません。たとえば8765バイトのサンプルがあって、4321バイトの点から再生したいとし
ます。エフェクト引数は43の部分しか正確にはならず、21の部分は無視されてしまいま
す。

 コマンドBはPlaying List/Order Jumpコマンドです。この引数には飛びたいプレイリ
スト中のパターンを指定します。コマンドDといっしょに指定したときは、パターンとそ
の何行目から再生するかを指定できます。

 コマンドEはかなり複雑で、ひとつめの引数によって様々なエフェクトに変化します。
順番にそれぞれのエフェクトを見ていきましょう。

 コマンドE0はAmigaのハードウェア・フィルタです。高音域を再生時にカットする働き
をする、ローパスフィルタです。Amiga以外のシステムでこの命令をシミュレートしてい
るトラッカーやプレイヤーはほとんどありませんので、このコマンドは使うべきではな
いでしょう。二番目の引数を1に指定するとフィルターをオンにし、0に指定するとフィ
ルターの働きを止めます。

 コマンドE1とE2はFine Portamento Up/Downです。音程が微かな量で変化すること以外
はコマンド1、コマンド2とまったく同じ機能です。これらのコマンドもまた記憶機能を
持っています。

 コマンドE3はGlissandoをセットします。引数を1に設定してからコマンド3を使うと、
スライドには変化させたい二音の間にある半音しか使われません。通常のスライドより
も飛び飛びになったようなスライドになります。これを理解するためには自分で試すし
かないでしょう。ゆっくりとしたスライドをコマンド3で作って聞いてみて、次にコマン
ドE31を使ってみてください。

 コマンドE4はSet Vibrato Waveformです。このコマンドはビブラート・コマンドがど
のように音程を変化させるかを指定します。引数は、0-正弦波、1-鋸波、2-矩形波、で
す。これらの引数に4を加えると、次の音が再生されたときに波形が最初から開始される
のを防ぐことができます。例えば5はリスタートなしの正弦波です。

 コマンドE5は演奏されている楽器のFine Tuneを設定します。これは現在演奏されてい
る音にのみ有効で、デフォルトのFine Tuneより優先されます。引数は0からFで、0が-8
、Fが+8のFine Tune値を表します。引数が8のときは音程の変化は起こりません。より新
しいトラッカーでは-128〜+128などの値がサポートされている場合があります。その場
合、このコマンドは粗いFine Tune値を設定することになります。

 コマンドE6はJump Loopコマンドです。E60を使ってパターン中のループを開始したい
点を指定し、次にE6xでループの終わりを指定します。xにはくり返しの回数を入れます
。

 コマンドE7はSet Tremolo Waveformです。ビブラートではなくトレモロに効きますが
、コマンドE4と全く同じ引数になっています。

 コマンドE9はRetriggeringで、音を素早くリトリガー(再びサンプルの最初から再生
しなおす)します。引数はリトリガーの間隔を指定します。現在の第二テンポよりも小
さい値を使わないとリトリガーされません。

 コマンドEAとEBはFine Volume Slide UpおよびDownです。普通のボリューム・スライ
ドとほとんど同じですが、こちらは第二テンポに影響されないのでより扱いやすくなっ
ています。指定する引数はスライドさせる量です。例えば現在ボリューム08(16進数)
で演奏しているところにEA1をかけるとボリュームは09(16進数)に変化します。EA1の
代わりにEB4を使うとボリュームは05(16進数)にまで下がります。

 コマンドECはNote Cutです。これは現在演奏中の音の音量を指定したティックでゼロ
にするものです。引数が第二テンポよりも小さくないと、エフェクトが動作しません。

 コマンドEDはNote Delayです。これは再生したい音と同時に使うもので、引数にはど
のくらい演奏を遅らせたいかをティック数で指定します。この引数も第二テンポ以下に
しておかないと音が出ません!

 コマンドEEはPattern Delayです。これはパターンをどのくらいの時間ぶん遅らせて演
奏させたいかを行数で指定します。引数は演奏を遅らせる行数です。

 コマンドEFはFunk Repeatコマンドです(この情報をくれたT-Jayに大感謝!)。この
コマンドはサンプル中で短いループを移動させていくものです。たとえば・・・
 長さ10000(10進数)のサンプルがあるとしましょう。サンプルのループを0〜1000に
セットしました。そこにEFxが使われるとループは1000〜2000に移動し、次には2000〜30
00になります。9000〜10000の次はまた0〜1000に戻ります。ループの「移動」の速さはx
で指定します。私はこの速さがどうやって決められているのか正確には知りませんが、E
はFに比べて二倍遅く、DはFに比べて三倍遅く、となっています。EF0はFunk Repeat機能
をオフにし、ループの位置を初期値(0〜1000)に戻します。
 もしかしたら情報が少し誤っているかもしれません。例えばループは0〜1000から1002
〜2002に移動するかもしれないのですが、たいしたことではありません。これをサポー
トしているトラッカーはごくわずかにしかありません。



   サンプリング
  ~~~~~~~~~~~~~~

   理論
  ~~~~~~

 音があなたのコンピュータのメモリに入る前の話をしましょう。空気中での音は連続
的に変化しています。そしてそれが電気信号に変換されたとしてもまだ連続的な変化の
ままです。ところがコンピュータでは限られた桁数あるいは精度でしか数を記録するこ
とができません。連続的に変化する音はアナログ信号と呼ばれています。コンピュータ
が音をひろっても、音を完全に再現するために必要になる情報をすべて保存するだけの
精度はありません。コンピュータが保存する形式のことをデジタル信号と呼びます。
 サウンドカードは、ある瞬間の音波の強さを計ってアナログ信号の情報を集めます。
この「瞬間の強さ」は音波のなかにおけるただ一点に相当します。音波全体を取り込む
ためには高速に計測を繰り返さなければいけません。普通は一秒間に何千回もの計測に
なります。ハードウェアは速度もメモリ容量も限られていますので、ある程度しか取り
込むことができません。ある計測点と次の計測点の間に存在していた情報は永久に失わ
れてしまうことになります。この「短い間隔で音を取り込む処理」のことをサンプリン
グと呼びます。
 音を演奏するためには、いままでの順序を逆にして、デジタル信号をアナログ信号に
してやればいいだけです。もちろん、出力された信号は階段状になっていますので完全
に再生ができるわけではありません。

 サンプリングをするときに考えておかなければならない4つのことがあります。サン
プルの分解能、周波数、振幅、そして著作権(チョー重要)です。
 サンプルの分解能とは、何ビットで音がサンプリングされたか、ということの別名で
す。すべてのトラッカーは8ビットが扱え、より最近のものでは16ビットサンプルも扱え
るようになっています。16ビットでのサンプリングは常にいい音質になります。いい機
材を使って録音すれば、8ビットのサンプルは16ビットと聞き分けられないくらいにまで
なるでしょう。ですが、ほとんどの人が16ビットを使うことを薦めるでしょう。
 音源の音質によっては非常に大きなノイズが入ってしまうというのが、低分解能の最
大の問題点です。16ビットの問題点はサンプルの大きさが8ビットのものの二倍になって
しまうことだけです。サンプルの編集は16ビットでおこない、曲を発表する際にすべて
のサンプルを8ビットに変換するのがちょっとしたテクニックです。こうすることによっ
て曲のファイルサイズを半分にすることができます(オリジナルの16ビット・バージョ
ンを取っておくのを忘れずに)。音質はほんの少ししか失われませんし、たいていの場
合プレイヤーのミキシング・ルーチンによって音質はカバーされます。また、自分のサ
ンプルが盗用されるのを防ぐことにもなります。

 サンプルの品質を決定付ける、分解能よりも重要なものはサンプル周波数です。サン
プル周波数は入ってくる音にたいして一秒間に何回サンプルを取るか、ということを表
しています。サンプル周波数が高ければ高いほど、音質が良くなります。
 では、どのくらいのサンプル数がちょうど良いのでしょうか? あなたがオーディオ
機器のスペックをよく見たことがあるのであれば、CDのサンプル周波数が44.1kHz(一秒
につき44,100サンプル)であることに気付いたでしょう。この数はとても大きいですね
。信号処理における有名な定理(ナイキスト理論)によると、音声信号を正確に再現す
るにはその音声信号の含む最高の周波数の二倍の周波数でサンプルを取らないといけな
いことになっています。ですから、CDの44.1kHzでは22.05kHzの高さの音までが録音でき
ることになります。
 では十分に高い周波数でサンプルを取らなかったらどうなるのでしょうか。そこで起
こるのはエイリアシング現象です。この邪悪な単語はただ単に、サンプル点がお互いに
十分な近さにないために実際には元の音にはなかった低い音として再現されてしまう、
という意味です。エイリアス周波数はお化けのような、ポルターガイストのようなもの
で、目には見えませんがたくさんの雑音を出してしまいます。低すぎる周波数でサンプ
リングを行うと、高い周波数領域の音が消えてしまうだけでなく、低い周波数に招かれ
ざる客が現れることになります。それらは雑音やひずみとして聞こえてしまいます。

 入ってくる音の音量に気を配ることは、いいサンプルを作る上で不可欠です。もしサ
ンプラーのオシロスコープで音を確認できるのであれば、波形がオシロスコープの上下
の端からはみださないようにしながら、できるだけ近くまでいくように音量をコントロ
ールしましょう。はみだすとクリッピングが起こります。また、サンプラーにオシロス
コープがなく、レベルメーターを使うものであれば、サンプルをできるだけ0dBに近づけ
るようにしましょう。

   練習
  ~~~~~~
 もうサンプリングの理論については読み飽きて、実際に自分でサンプリングをやりた
くなってきていますね? 最初に必要なのはサンプリング用の機材です。PC用のほとん
どのサウンドカードにはサンプリングのための機能が用意されています。AmigaやAtari
ではサウンドチップに加えていくつか機材が必要になるでしょう。
 サンプルの編集はそれほど大変ではありません。ほとんどの場合、試行と失敗を重ね
ながら音の始まりと終わりの正確なポイントを探す作業です。波形を普通の本のように
読み解くことができるまでには相当の時間がかかります。
 ここがトラッキングがMIDIと比べて格段にいいところです。MIDIサンプラーにはウェ
ーブフォームを正確に表示する、簡単な画面がありませんし、マウスもついていません
(訳注2000.6.17:ローランド社のサンプラーには外部画面とマウスが接続できるものが
ありましたし、最近はコンピュータからサンプラーを直接操作できるようになってきて
います)。私がWindows 9xを使う理由の一つには、サンプルエディターがあることと画
面の解像度が高いことが挙げられます。
 サンプルを中央に持ってくることとノーマライズをかけることから始めましょう。次
にサンプルの最後の部分にズームインして、サンプルが終わると思われる部分を見つけ
ましょう。コンピュータは大きなメモリブロックを移動させるよりも、いらない部分に
ゼロを入れていくほうが高速なので、常にサンプルの最後から扱うようにするといいで
しょう。もし仮想メモリを使用しているのであれば、この事によって作業をより高速化
することができます。またサンプル全体を見られるようにズームアウトして、正しい場
所をマークしたかどうか確認しましょう。もし正しいようであれば、その点からサンプ
ルの最後までをカットしてしまいましょう。サンプルを再生したときにもし音の終わり
が早すぎるようであれば、ペーストかアンドゥで切り取った部分を元に戻して、やりな
おしです。
 もしかしたらあなたが切り取った部分によって、サンプルが中央からはずれてしまっ
ていたり、切り取った部分の音量が他よりも大きかったかもしれませんので、またサン
プルを中央に持ってき、ノーマライズしておきます。ズームインしてどこからサンプル
が始まるのかを探しましょう。その点以前をカットしてから、正しくサンプルが鳴るか
を確認します。やり足りなかったりやりすぎていたりしたら、うまく行くまで繰り返し
ましょう。
 気に入る音ができるまで少しずつ音をカットし、サンプルを再生します。最後にまた
サンプルを中央化し、ノーマライズをかけます。完成したサンプルをディスクに保存し
ますが、意味ある名前を付けるようにしましょう。もしサンプルがシンセサイザーのプ
リセットやCDから録音したものであったら、その名前を付けるのがいいでしょう。もし
あなたが私が使っているのと同じようなDETAILS.TXTを使用しているのであれば、そのフ
ァイルにも追加しておきます。
 じっくり時間をかけてすべてのサンプルが正確な音程であることを確かめましょう。
長くきれいなループしたサンプルをひとつのチャンネルで再生させておき、その他すべ
てのサンプルをこのサンプルに合わせるようにします。もう少しで素晴らしいものにな
りそうなほとんどのモジュールは、音程のずれによってダメになっています。もちろん
サンプルの音程がエフェクトによって意図的に変化させられているものは除きます(こ
れは非常に少数派なのですが)。

   声サンプルの使いすぎ
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 経験を積んだトラッカー達にも言えることなのですが、よくある間違いというのは、
ある声のサンプルをどこかで見つけてきて、そのサンプルがマジでスゲェだの面白いだ
の信じこんで最新曲に約87回使ってしまうことです。このことは特にダンス曲に多く見
られます。これは素晴らしい曲になるべきものを殺してしまうことになります。はじめ
て聞いたときににどれだけサンプルが可笑しかったりクールに思われたりしても、聞い
て楽しく感じられる回数というのは決まっているものです。また、音楽というのは誰か
が何かを何度も何度も叫んでいるのを聞くものではなく、メロディやビートのグルーヴ
を聞くものなのですから、曲をより良くしようとして声サンプルに頼りすぎるのはよく
ありません。その声サンプルを消してみた状態で曲を再生したときに、声がないことで
曲がひどくなってしまったと感じるようなものであれば、それはあなたが声サンプルに
頼りすぎ、音楽部分が十分でないことのあらわれです。本当に面白かったり楽しい声サ
ンプルを一度か二度使うことによって良い曲はより良くなりますが、悪い曲を良くする
ことはできないのです。

   リッピング(剥ぎ取り)
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 サンプルの剥ぎ取りをするときには頭にいれておかないといけない点がいくつかあり
ます。ループするときにクリック音のしないきれいなサンプルを選びましょう。もし本
物の楽器のサンプルを探しているのであれば、そのサンプルがちゃんとした楽器音に聞
こえるかどうか念を押さないと、あとで間抜けに聞こえるだけです。また、サンプルは
新しいほど良いでしょう。そして最後に、リッピングをしたときにはもとのサンプルを
作った人にメールを書いて許可を取ったほうがいいでしょう。許可を取らないのであっ
ても、その人への謝辞の言葉をモジュールに付けておきましょう。これは基本的な礼儀
です。

   著作権
  ~~~~~~~~
 リッピングには著作権がつきものです。もしあなたが曲を商業的に発表するつもりが
ないのであれば、どこから取ってきたサンプルでも好きに使っていいでしょう。あなた
がお金を得てもいないのに、あなたのことを著作権使用料のために追求する人なんてい
ないでしょうから。
 しかし、もしあなたが曲をちゃんとリリースしたいのであれば、注意を払いましょう
。(商業的にあまり使われていない)ベース音ただ一つなどを剥ぎ取ってくるのであれ
ばなんとか逃げきれるかもしれませんが、もし誰かの曲の分かりやすい部分を取ってく
るのであれば、完成曲をあなたのものとしてリリースする前にしっかりと著作権につい
て許可をとっておきましょう。まぁ、小さいちょっとしたサンプル一つで大金を支払う
ことになるとは考えられませんがね。



   リリース
  ~~~~~~~~~~
 気に入った曲が出来上がったら、それを他の人にも聞いてもらい、感想を聞いたりし
たいものです。とても重要なことは、初めて作ったいくつかの曲は絶対にリリースして
はいけない、ということです。最初から質の高い曲を作れるほどの才能に恵まれている
人はほとんどいません。経験と訓練が必要なのです! 曲ができたら数日ほったらかし
ておいて、その後聞いてみましょう・・・別の視点から見られるでしょうか。幾人かの
友人に聞いてもらい、建設的な意見を引き出しましょう。いい点はもちろん、悪い点を
聞くのを忘れずに。
 もう曲をリリースしても良いと感じたら、インターネットを通じてリリースするのが
良いでしょう。アップロード可能な多くの良質なFTPサイトがありますが、それらのほと
んどは非常に込み合っており、回線が遅くなっています。もし電話料金を心配しなくて
もいい環境にいるのであれば、FTPサイトを利用したほうがいいのですが、電話料金を払
わなければいけないのであれば、alt.binaries.sounds.modsニュースグループに投稿し
てリリースするのが良いでしょう。自分自身のウェブサイトがあれば、そこでリリース
するのもいいアイデアです。http://www.geocities.com、http://www.fortunecity.com
、http://www.crosswinds.netといった無料のウェブサイト・プロバイダでもいいでしょ
う。



   テクニック
  ~~~~~~~~~~~~
(訳注2000.6.17:この部分には何も書かれていませんでした。)