2. 中級者
 よっしゃ、だいたいのことは分かった。サンプルもエフェクトも使えるし、曲もいく
つか発表した。でも、そういやアレってどうやったっけ?
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   エフェクト
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 第一章では紹介しなかったエフェクトがいくつかあります。この章で新たな冒険を始
める前に、すべての基本的なエフェクトに馴染んでおいてください。エフェクトが正し
く使われなければ、良くなるはずの曲も良くなりません。

   パンニング
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 ステレオ・パンニングの話から始めましょう。これは音を左右のスピーカーの間の特
定の位置で鳴っているようにするエフェクトです。
 パンニングは(Fast Tracker 2においては)コマンド8によって使うことができます。
 このコマンドの使い方は簡単です。800は音をいちばん左に置き、8FFは音をいちばん
右に置きます。ふたつの間にある値は左右のスピーカーの間に音を置くことになります
。例えば880は音を中央に置き、860は中央から少し左に、8D0は中央から右側にやや離れ
た位置に置きます。

 ステレオ・サラウンド機能が使えるトラッカーもあります。ステレオ・サラウンドは
実はけっこう単純なものなのです。すべての音のミキシングが終わったのち、左右どち
らかの波形が上下さかさまにされるだけです。これによって音が聞いている人の周りを
包むような効果が生まれるのです。
 ステレオ・サラウンドは聞いている人がちょうど左右のスピーカーの中央と平行に位
置しているときに最大の効果を発揮します。

   左スピーカー ---------+--------- 右スピーカー
                        人

 スピーカーの近くにいることも効果を上げます。スピーカーどうしの距離を広げるこ
ともサラウンド感を増加させます。
 しかし、ステレオ・サラウンドによって生じる問題もあります。低音のほとんどが消
されてしまうために、音に高音が多く含まれているときしかうまくサラウンドにならな
いのです。このことによって、全体的に音のしまりがなくなってしまいます。もちろん
、聞く人が左スピーカーの左側や、右スピーカーの右側に陣取ることで、サラウンド効
果を減らすことはできますが、誰がそんなことをしたいでしょう?

 最新のトラッカーではInstrument Parameterからパンニングを設定することができる
ようになっています。パンニングの初期設定として指定するものがほとんどでしょう。
また、パンニングのエンヴェロープを指定することができるものもあります。
 パンニングの初期設定は音量の初期設定と同じように働きます。楽器のパンを特定の
位置に決め、パンニング・コマンドなしで演奏されたときにはその初期値を使用します
。
 パンニング・エンヴェロープはより柔軟な位置設定をすることができます。

 パンニングを使う際の問題は、多くの人々がパンニングのやり方や機材の設定の仕方
を知らないということです。ほとんどの人が音を左右に大きく振るだけに終わっており
、聞く側にとってこれは苦痛です! ソフトなバウンシング・パン(訳注2000.6.17:左
右を行ったり来たりするパン)は効果的ですが、使いすぎは毒となります。

   仮想音源(By XRQ)
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 皆さんも知っての通り、音楽家や音響技師たちは、ただ単純にステレオのほうが音が
良いという理由でとっくの昔にモノラルに分かれを告げました。
 一つめの質問は、なぜ?です。
 モノラルでは音源はひとつですので、複数の楽器を一つのスピーカーで鳴らすことに
なりますから、いろいろと問題が出てきます。楽器の音を聞き分けるのが難しくなりま
すし、楽器どうしで重なりあってしまって、あるべき姿で音が鳴らなくなります。
 ステレオではふたつの音源を使うようにしましたので、問題解決は二倍の簡単さで済
みそうです。しかし、そうではなかったのです。ふたつのスピーカーを使ったステレオ
では、実際にはふたつどころではなくいくつもの音源が使えるようになったのです。
 二つめの質問は、どのように?です。
 答えはステレオにおいて生じる「仮想音源」(と私が勝手に呼んでいるもの)にあり
ます。音楽に耳を傾けたことのある人なら、ある楽器(例えばギター)は左から、ある
楽器(ドラムやボーカル)はだいたい中央から、そしてある楽器(自分で考えてちょ)
は右から出てくることに気付いたでしょう。これは、楽器が左右に広がりを持った空間
上にちりばめられていると考えることができます。
 様々な実験結果が、人間は空間上において17の位置点を聞き分けることができると報
告しています。これだけ多くの位置を聞き分けるには長年にわたってスタジオで働いて
きた完璧な耳が必要になりますが、われわれのような一般ピープルは11か13の点が聞き
分けられるそうです。これらの位置点とは、私の言っていた「仮想」音源なのです。だ
って、ふたつのスピーカーしかないのに、音はあっちやそっちやこっちからやってくる
でしょう!?
 これを書いている目的は、音楽として認識できるすべての音についてパンや音量のバ
ランスが取れた曲の重要性を強調するためです。
 ここで三つめの質問です。この知識で何をすればいいの?
 あなたのトラッカーのパン設定を見てみて、空間をいくつかに分割してみると良いで
しょう(七つより少なくちゃダメよ)。ま、あなたがやらないのであれば、私が(あな
たのために)やっておきました! 以下にあるのはFast Tracker 2.0xを使う場合のパン
の表です(数値は16進数):

 7点
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00 2A 54 7F AB D5 FF

 9点
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00 1F 3F 5F 7F 9F BF DF FF

 11点
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00 19 32 4C 65 7F 99 B2 CC E5 FF

 13点
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00 15 2A 40 54 6A 7F 94 AB BE D5 E9 FF

 00、7F、FFがどの表にもあることに気付いたかもしれません。これらは左端、中央、
右端を表しています。
 これでおしまい。バランスに気をつけましょう!

  テクニック
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   エコー
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 あなたは自分のMODにエコーを使っていますか? 使っていない? なぜ? エコーは
音を分厚くするのにうってつけの簡単なテクニックです。ただ単純にあるチャンネルの
中身を他のチャンネルにコピーし、音量を半分くらいにセットし、からの行をひとつ入
れるだけです。パターンを再生して、もしカッコ良く聞こえたら成功です。からの行を
ひとつ入れるのはテンポの遅い曲の場合にだけ有効ですので、カッコ良く聞こえるよう
になるまでからの行を挿入しつづけましょう。
 ひとつ覚えておいてほしいことがあります。(誰とは言いませんが)達人が作ったMOD
も含め、多くのMODで見かけたことがあります。エコーが長いとき、挿入した空行のせい
で、パターンの最後のほうの音がとぎれてしまいます。もとのチャンネルには音がまだ
残っていますので、再生したときには、各パターンの始まりの部分でエコーがとぎれ、
途中からまたエコーが始まる、といったように聞こえてしまいます。これによって音楽
の躍動感がまったく損なわれてしまいます。空行を入れたせいで消えてしまったエコー
音をプレイリスト中の次のパターンの先頭に入れてやることで、エコーが途切れること
は防げます。

   ゲートをかける
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 ゲートをかけるのもかっこいいエフェクトです。ゲート・エフェクトはコマンドAによ
ってなされることが多いです。長いかループのかかったサンプルをロードしてきて、音
量を最大にし、以下のように入力してみましょう(音の高さは何でもいいですが、エフ
ェクト部分は同じようにしておきましょう。また、ボリュームの列は省略しました)。

   C-5  1 A0F   -   発音開始、音量をスライドさせる
   ---  1 A0F   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   ---  1 A0F   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   ---  1 A0F   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   ---  1 A0F   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   ---  1 A0F   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   ---  1 A0C   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   ---  1 A08   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   E-5  1 A0A   -   発音開始、音量をスライドさせる
   ---  1 A0A   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   ---  1 A08   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   ---  1 A06   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   D-5  1 A08   -   発音開始、音量をスライドさせる
   ---  1 A08   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   ---  1 A06   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる
   ---  1 A04   -   音量をサンプルの初期値に戻し、音量をスライドさせる

 このパターンを再生すると、スライド速度が遅くなるにつれて音の途切れ途切れの感
覚が少なくなることに気付くでしょう。この途切れ途切れな感覚がゲートです。ゲート
はストリングスや声にかけると効果的です。自分でやってみて、どんなところで使える
か見てみてください。

   二重チャンネルの防ぎかた
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 ただ音量を増やすためだけに二重に作ったチャンネルは非常にじゃまなものです。使
えるチャンネル数を減らすだけではなく、再生時にも変なことを起こす場合があります
。ふたつのチャンネルの再生タイミングが少しずれると、もごもごした音が出てきてし
まうことがあります。

 二重チャンネルを使うのを防ぐいくつかの方法があります。最初はそんなに良くない
方法から:

1)サンプルの音量を波形から変更する方法。これが最悪の方法かもしれません。サン
プル音量を変更すると、振幅を大きくしすぎて音がひずんだり、サンプルの各点がゼロ
に近づいた部分でデータを失う場合もあります。くり返しサンプル音量を変更すること
によって、確実に音質は悪くなっていきます。

2)サンプル音量の初期設定値を変更する方法。どのトラッカーを使うかによって、問
題が生じるかどうかが決まります。Fast Tracker 2やPro Trackerなどではデフォルト音
量はVolumeコマンドを使いつづけるのと同じことになります。説明すると、例えばデフ
ォルト音量40の楽器があるとします。いろいろと曲をいじっていったあと、この音量は2
0のほうが全体が良く聞こえることに気付きました。デフォルト音量を変更します。そう
すると問題が出てきました。このサンプルに対してのすべてのVolumeコマンドやSlideコ
マンドはデフォルト音量が40のときにうまく働くようになっていましたので、変更後に
は音がうるさすぎたり、時々消えてしまったりするようになってしまいました。また、
以前と比べ音量のステップ数が半分になってしまいましたので、なめらかなVolume Slid
eを得ることは難しくなってしまいました。
 Impulse Trackerのようなトラッカーではこの問題をGlobal Volumeという方法で解決
しています。これは相対的な音量レベルで、この部分を変更しても各コマンドがどう働
くか、という部分には影響を与えないようになっています。

そして最高の方法を:

3)ボリューム・エンヴェロープを使用する方法。これは私の個人的なお気に入りです
。Impulse TrackerにおけるGlobal Volumeと同じように働きますので、Impulse Tracker
ユーザーは無視してしまって結構です。
 サンプルをロードして、2点だけからなる単純なボリューム・エンヴェロープを作り
ましょう。(訳注2000.6.16:分かりやすくなるよう、グラフを少々変更。)

最大音量    *----------
            |
            |
            |
            |
最小音量  --*

 ひとつめの点はグラフの一番上に、ふたつめの点はグラフの一番下に置きます。ふた
つの点を水平方向にできるだけ近づけ、グラフの直線が垂直になるようにします。Susta
inはひとつめの点に設定します。
 これだけです! サンプルのデフォルト音量はひとつめの点を上下に動かすことによ
って実現できます。

4)デフォルト音量を読み込み時に半分にする方法。簡単で素早く、効果的です。音量
を半分にするのは、上に挙げたどの方法を使ってもできます(Global Volumeか3番が理
想的)。もしもう少し音量が必要なチャンネルがあれば、他の設定をいじることなしに
、そのボリュームを増やすだけでいいのです。

 二重に作成したチャンネルを削除することは、音質を良くし、ミキシング速度をあげ
るだけでなく、曲を作るのも簡単にします。画面スクロールをさせたりするのも少なく
なりますし、一画面により多くのパターンを表示させておくことができるようになりま
す。

   サンプリング
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   CDリッピング
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 CD-ROMドライブは持っていますか? もし持っているのであれば、CDリッパーは使っ
ていますか? 使うべきですよ。CDリッパーはオーディオCDの完璧なコピーを作ること
ができるソフトです。
 CD-ROMドライブとCDから生データを読み取ることのできるドライバが必要になります
。以下にどのCD-ROMドライブがその用途に使えるかを示した互換性表を用意しました。

   ドライブとインターフェイス
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   LG/GoldStar GCD-R540C - IDE
   BTC 36x - IDE

 (ま、今のところは不完全ですが・・・!)

 もしあなたのドライブが表に載っているのに、生データを読み込むことができないの
であれば、いくつか試せることがあります。
 Windows 95 OSR2とWindows 98での問題は、CDリッパーとの互換性が挙げられます。コ
ントロールパネルを開き、システム/パフォーマンス/ファイルシステム/トラブルシ
ューティング/32ビットプロテクトモードのディスクドライバを使用しない、を選んでW
indows 95の32ビット・ディスクアクセスを回避するようにします。これにはDOS用のCD-
ROMドライバがインストールされている必要があります。
 特定のドライブには他の問題がある場合があります。ひとつは、リブート後はじめて
の読み込みは常に失敗するか、読み込み開始がはじまらないというものです。この場合
はCDをイジェクトし、再挿入してからもう一度試してみてください。

 私の知る限りでは、Fast Tracker 2が唯一CDリッパーを内蔵しているトラッカーです
が、あまり互換性は良くありません。もしあなたがDOSをトラッキングに使っているので
あれば、CD2WavというCDリッパーがいいように思われます。32ビットCD-ROMドライバに
も対応していますので、Windows 9x/NTでも使うことができます。弱点は、CD内の場所に
よっては読み取ることができない部分があることです。もし曲の終わりの2秒分だけの
サンプルが欲しいときには、曲全体を取り込んでから自分の欲しい部分だけを切り抜く
作業が必要になります。これはとても不便ですし、場合によっては不可能です。
 Windows 3.1上でCD-DAを取り込みたい場合は、Digital Domainというソフトが私の知
る唯一のソフトです。とても原始的なソフトですが、やりたいことを素早く、効果的に
行うことができます。Windows 9x/NTではCD-Worxがいい選択肢です。NTは9xとは違った
方法でものごとを管理しますので、CD-Worxには9xとNTにそれぞれのバージョンがありま
す。CD-WorxはさまざまなCDフォーマットから読み込むことのできる良質のソフトです。
Audiograbberは、いつもうまくいくということと、エラーが発生しても処理を続行させ
られる、という理由から私が現在使っているソフトです。Audiograbberの無料バージョ
ンには、ちょっとした制限が設けられています。特定のトラックを取り込もうとしても
、取り込めるのはCDのトラック半分からランダムに選ばれたトラックだけなのです。ど
うしてもそのトラックが欲しければ、そのトラックが取り込まれるまでくり返し実行し
なければなりません。

   フィルター
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 多くのサンプリング・プログラムには音質を向上させるのに使うことのできるたくさ
んの機能が備わっています。まずはじめにフィルターを見ていきましょう。通常プログ
ラムにはコントロール可能なローパス/ハイパス・フィルターがついています。
 フィルタは基本的に、入力音から特定の周波数を取り去る働きをします。カットオフ
周波数より高い周波数領域を取り去るものをローパス、カットオフ周波数より低い周波
数領域を取り去るものをハイパス、ふたつのカットオフ周波数の外側を取り除くものを
バンドパス、ふたつのカットオフ周波数の間を取り除くものをバンドストップといいま
す。(訳注2000.6.16:原文には、ローパスとハイパスおよびバンドパスとバンドストッ
プの記述がそれぞれ逆であるという誤りがありました。)
 ローパス・フィルタは音に深みを与え、重低音を加えたように聞こえます。
 ローパス・フィルタを使う理由のひとつは低音サンプル(ベース音など)からノイズ
を取り去るためです。サンプルに太さを加える働きもあります。あまりに高い周波数ま
で通すローパス・フィルタは使わない方がいいでしょう。ベースからノイズを取り除く
のであれば、8kHz程度のローパス・フィルタが適しているように思われます。
 ハイパス・フィルタもいろいろと音作りに使えるので便利です。ベースに対してハイ
パス・フィルタをかけた場合、「抜け殻」のような質感を与えることができます。カッ
トオフ周波数が高ければ高いほど、音の空洞感は大きくなります。